八千代市には現在75軒の梨農家を束ねる梨業組合(りぎょうくみあい)があります。その組合長を現在なさっている宮崎憲夫さんが今回の訪ね先!直売所「丸勘(まるかん)梨園」へ、8月入ってすぐ頃にお伺いしてきました。

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丸勘梨園さんは、16号の米本交差点につながる県道沿い(村上のイズミヤに隣接した新川側の道)にあります。イズミヤ側から16号に向かうと、丁度ピピゴルフの看板がある交差点の左前方に大きな瓦屋根の長屋門があるんですが、それが直売所の目印!すぐ隣りに宮内公会堂や七百餘所神社があります。

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丸勘梨園さんは看板が無く梨の旗が木の陰からちらっと見えるだけなので、なかなか通りすがりで立ち寄るケースは少なそう・・・。
ちなみに長屋門の前の空きスペースが駐車場になっています。

長屋門のすぐ左にある小さな戸口から園内へ進むと、日差しを遮るようにキウイフルーツが生い茂っていて、すぐその下には梨の試食用テーブルの一角、そして隣り合わせの建物内でキレイに箱詰めされた梨が販売されていました。
ちなみにこのキウイは、梨園が終わりを迎える10月頃に収穫期を迎えるので、その頃いらっしゃるお客さんに配ってるそうです。

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丸勘梨園では“減農薬・減化学肥料”のエコファーマーを取得していますが、農薬使用量などの数値は、さらに厳しい千葉エコレベル!
バフンや堆肥、もみ殻などを2年寝かした有機肥料を使った土づくりのほか、市内でも広く使われている“害虫交信かく乱剤”(→詳細はこちら)で虫の被害を予防する取り組みなどを行っています。
この害虫交信かく乱剤は、人工のフェロモンで虫を混乱させることによって交尾・繁殖を阻害する、農薬ではなく匂いを利用した環境にやさしい手法です。けれども、一度虫の被害が広まったり、病気が発生してしまっては全く農薬無しで乗り越えることはかなり困難。そのため、農薬の使用を最小限に抑えるためには“観察と予察”が欠かせないそう。
『日々怠らずに木の様子を細かく観察し、今後どのような害虫が発生しそうか?病気が起こりやすそうか?という余察をきちんと行うことで、先手を打って対策できる。そうすることが、無駄に農薬を添加せずに済む一番の秘訣だね。』

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この丸勘梨園さんの魅力は、何と言っても取り扱っている梨の多さ!
幸水や豊水、新高といったメジャーな品種だけではなく、その他合わせて15種類もの梨を販売しているんです。大抵一品種につき2週間程度が目安のようで、ちょっと間を置いて尋ねるとガラッと商品が変わっているのも新鮮です。
「八君」や「若光」といった例年7月後半頃に出始めるものや、「愛宕(あたご)」という11月~12月にかけて採れる梨の時期には、直売所が閉まっているので、電話やFAXで受け付けて個別に販売を行っているそうです。
販売されるこれらの梨は、すべて朝採りしたものばかり。もし売れ残っても翌日に持ち越すことなく市場へ卸してしまうので、直売所に陳列された品は常に新鮮そのもの!

さて、そんな丸勘梨園さんですが、私が訪れた8月はじめには、まだ出始めの「若光」が少し並んでいる程度でした。確か去年はもっと早い時期に写真を撮りにきていて、その時にはもう大玉がゴロゴロ並び、そろそろ終盤の頃だったような気がしましたが・・・。

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『例年に比べて春は気温が上がらず、幸水なんかも花の開花時期が4日ほど遅れていてね。全般的に収穫時期がかなりずれこんできているんだよ。しかも今年はいくらか水不足で大玉になりにくい状況。幸水はまだまだ小粒で色がつかないんで、どこも今年は8月中旬頃にならないとある程度の品が出てこないんじゃないかな。でも逆に、雨が少ない分糖度が上がって味は良いね。』

今日明日くらいに雨でも降ってくれれば違うんだけどね・・・と嘆くようにおっしゃっていましたが、そのくらい梨にとって“ひと雨”でも随分と生育に差が出るほど貴重なんだそうです。
特に今年の7月は思うように雨が降らなかったようで、地面が固すぎてセミが出て来れないんですって!だからセミの鳴き声がいつもより少ない感じがあったのかしら?
しかも、普通なら8月はじめにはムクドリも大発生なはずが、丸勘さんの梨園でも“6羽しかかかってない”というくらい全然被害がなかったよう。どうも気象がおかしいようだ、とポツリ。

中でも一番弱ってしまうのは、暑さが厳しいことだそう。日中30度以上もの状態がずっと続くと、中が腐ってしまう“芯ぐされ”を起こしてしまうこともあるようで、すでに果汁が漏れ出ていたり、もいでしばらく置いておけばすぐ痛んでくるので分かるそうですが、なかなか収穫のときには判断が難しいようです。
ちなみに、そうでなくとも実が熱くなった状態で箱詰めすれば熱がこもって痛んでしまうため、早朝にもいでしまうとのことでした。

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(昨年の写真/同じく若光。今回より数日前ですが、かなり色づきがよく大玉でした。)

もぐタイミングといえば、完全に100%熟した梨では全く日持ちがしないので、梨それぞれに合ったタイミングで収穫しているそうです。例えば、幸水はあまり日持ちがしないので7~8割程度熟したところで収穫してしまいます。その程度でも、酸味の無い品種なので十分甘味が引き立つし、食感も良く美味しく感じるんですって。逆に豊水は、芯に酸味が伴うので、8~9割熟した状態までもっていかないとダメなんだとか。
『9割も熟せば酸味が十分和らぐけれど、こういう酸味のある梨は青もぎしてしまうと、いくら後から色づいてもすっぱさは残ってしまうんだよ。実際のところ、糖度で比べれば幸水より俄然豊水のほうが高いし、きちんと熟してからもいだ実が出回れば今ほどイメージが悪くないと思うよ。それに、酸味は芯に近い部分に集中しているから、大玉なら芯までの果肉量が増えて酸味がさらに薄れる。
お盆の時期と収穫時期が重なるから幸水が売れるけど、豊水も同じ時期に出回っていたら、恐らく幸水の重要はこれほど伸びないかもしれない。ともあれ、豊水は直売所で本当の味が分かるはずだよ。』

ちなみに、幸水と豊水の中間くらいの品種もあります。特に幸水が好きな方にはオススメというのが「夏光」。幸水がどろっとした甘さなら、こっちはシャキッとした甘さ!今年は8月下旬くらいに旬を迎えるようですが、ぜひこちらもお試しあれ。

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幸水や豊水だけではなく、この“完熟の程度”というのは梨全般においてその味に大きな影響があるようです。昔ながらの梨で、今はあまり見かけなくなった「長十郎(ちょうじゅうろう)」でさえ、この完熟度合で全くの別物に大出世するようで・・・。
『長十郎っていうと、ガリガリ歯ごたえばかりで旨みが少ないように思っているかもしれないけれど、ほんとのおいしいのは最高に甘いんだよ。この品種はものすごく糖分が高くてね。長十郎の一番の食べ頃は、9割完熟した頃にもぐのがいちばん!ただ、全く日持ちがしなくてすぐに黒くなって実がふかふかになってしまうもんだから、大抵青もぎしてしまうんだよ。青もぎすればうまくないし、かといって完熟で収穫すれば賞味期限が短くて売るタイミングが難しい。なかなか市場に出回らない理由だね。』

ちなみに丸勘梨園さんでは販売してるんですか?
『いや、販売はしていないよ。1本は花粉を採るために残してあるけどね、幸水や豊水の授粉にはピッタリなんだよ。9月の中旬くらいに収穫期を迎えるんだけど、大抵うちで食べちゃうか、市内の焼き肉店なんかで欲しいという方がいたんで毎年あげてるよ。渡す先が二人とも焼肉のタレを作るのに欲しがっていて、両方から出来あがったタレをお返しに1年分もらうんだ。同じ梨を使ってるんだけれど味が違って、2種類楽しめるから楽しみでね。この長十郎は、砂糖を一切使わなくても濃厚な甘さが出せるくらい、糖度が高いってことだね。』

へぇー!!
そんな抜群に甘い長十郎、食べてみたーい!!
ということは、丸勘梨園さんが一番おいしいと思う梨って、実は長十郎なんですね。

『・・・いや、そりゃ違うな。』(違うんかい!)

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『一番うまい梨っていえば、やっぱり「秋月(あきづき)」だな。これもやっぱりほぼ100%完熟くらいにもいだやつが最高に美味しいんだよ!酸味は無くて、梨特有のつぶつぶした石細胞(せきさいぼう)がほとんど感じられないくらい食感が良くてね。丁度「若光」を甘ーくしたような感じだよ。ありゃうまいね。』
ちなみに秋月は丸勘梨園さんでも購入できますが、その完熟のタイミングがまちまちなので、予約をしておいて連絡を受けてから買いに行くほうが確実だそうです。
※2008年09月28日 梨「秋月(あきづき)」を食べました!

色々お伺いしていた中で、こんな興味深い話も耳にしました。
どうも、八千代の梨は“糖のバランス”が良いらしいんです。
『同じ数値の糖度でも、中のブドウ糖や加糖、ショ糖といったそれぞれの配分で味覚に差が出るようでね。科学的に調査したわけじゃないけど、どうも八千代の土地で出来た梨は、その糖のバランスが良いようで同じ糖度でも美味しく感じるみたいなんだよ。』

といっても、各園の立地や樹齢、育て方、もぐタイミングによって、やっぱり全然味が変わってきます。組合長でもいらっしゃるここ丸勘梨園の宮崎さんは、その基準ラインを維持して“八千代の梨”のブランド力を高めたいとおっしゃいます。
『商売を意識しすぎれば、売れて商品が無くなれば熟してない梨さえも売ろうと青もぎしたくなるし、全然売れない店なら売れ残りを鮮度が落ちても次の日にまわしてしまいたくなるものだよ。ここをぐっと我慢して、八千代はどの直売所でも適度に熟した朝採り梨が買えるという絶対的な状況を維持できなければ、お客さんからの信頼も損なうことになってしまうからね。』

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そんな美味しい八千代の梨が一堂に会する「梨の共進会」が、今年も平成20年は8/18(月)に緑が丘イオンで行われます(→早耳情報はこちら)
今年は「幸水」が対象品種になるんですよね。

『去年は大玉になりやすい豊水だから4Lサイズが出品基準だったけれど、今年は幸水で粒がわりと小さめな品種なので3Lになる予定だよ。あんまり発育状況が進まなければ、2Lになるかもしれないけれど・・・。それより準備期間が17~18日となると、お盆で幸水の販売が最盛期を迎える頃だから、どこも準備が大変な状況。去年は日程の関係で8月末になったのでたまたま豊水になったけど、出品者側も落ち着いていて大変やりやすい状況だったから、もしかしたら幸水で共進会をやるのは今年が最後かもしれないねぇ・・・。』
ちなみに、今年の表彰は園芸協会の表彰式と一緒に別日程で行われるため、去年のようにイオンで市長が表彰したりすることはないそうです。

今回のお話を伺って、丸勘梨園のことだけではなく、八千代の梨全般を常に気遣っていることがひしひしと伝わってきました。そんな宮崎憲夫さんが手掛ける梨を、ぜひ一度口にしてみてはいかがですか?
私的には、その超うまい!という秋月を食べてみたい・・・。

●丸勘梨園(まるかんなしえん) TEL(FAX)047-483-2739
千葉県八千代市村上428(地図
営業時間/10:00~18:00(盆過ぎは17:00頃)
駐車場/有り
※八千代ナビ!八千代の梨園マップはこちら